認知症には定期的な有酸素運動が有用です
前述の通り、運動は認知症に対して多面的な効果があります。特に体内の糖質や脂肪を酸素とともに消費する
有酸素運動が効果的とされています。ジョギングやウォーキングを定期的に行うことにより、認知症予防とともに運動機能・認知機能低下の予防が期待できます。高齢者の場合は、過度の運動ではなく速歩程度の軽い運動が望ましいとされています。さらにストレッチやバランストレーニング、柔軟性トレーニングなどを組み合わせた運動プログラムにより、健康状態もよくなり、心理面でもうつ状態を防ぐことができます。
運動療法に加えて様々な療法が開発されています
認知症の患者の増加とともに、古くから知られている療法が認知症患者に適用されるようになってきました。また、国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズのように運動療法と認知課題を組み合わせた療法も登場してきました。どの療法がどのくらい効果があるのかは現在も研究が進められていますが、いずれの療法も患者さんに情動面・認知機能面・運動面で刺激を与えて、認知症を予防したり、進行を遅らせたりするためのものです。療法を通じて人と触れ合うこと自体も非常に大切なことです。
療法1:回想法
回想法は古くからある心理療法で、グループになって過去を振り返り、お互いの話を受容的・共感的な態度で聞く療法です。1960年に精神科医のR. Butlerによって開発されたもので最初は"ライフレビュー"と呼ばれていました。世代間交流や地域活動といった側面もあり、認知症の療法としても利用されます。受容的・共感的な態度で聞くというのは、平たく言えば過去のことを振り返りながら楽しく話しましょうということです。
療法2:音楽療法
音楽療法はさらに古くから存在する心理療法です。参加者自ら歌ったり演奏したりする能動的音楽療法と、参加者が音楽を鑑賞する受動的音楽療法に分けられます。高齢者のケアや引きこもりの児童のケアに活用されており、認知症の療法としても活用されています。音楽を聴くことは刺激になりますし、脳波や血圧、発汗などによい影響があり、気持ちが落ち着いたり、痛みや不安が和らいだりします。また音楽に合わせて動けば運動になりますし、言語能力の改善など様々な効果が期待できます。
日本音楽療法学会認定の音楽療法士が全国の病院・施設で活動しています。
療法3:芸術療法
芸術療法(アートセラピー)も音楽療法同様古くから存在する療法です。絵画制作を生活療法の一環として利用したことに始まり、現在では音楽、俳句や和歌、陶芸、ダンスなど幅広い芸術、創作活動を活用するものになっています。また適用対象も、身体疾患のみであったのが精神疾患にも広がり、年齢的にも子供から高齢者まで広がってきました。イメージ表現による手法ですので、参加者と治療者の間の非言語的(ノンバーバル)コミュニケーションが重要であり、
ラポールが成立しているかどうかが治療効果に影響をを及ぼします。
日本芸術療法学会が中心となって学術的研究も進められています。
療法4:現実見当識訓練
現実見当識訓練(リアリティーオリエンテーション,RO訓練)は、自分の周囲の状況の正しい理解を促す訓練と言えます。具体的には、自分の名前、年齢、家族構成、時間や場所、ここにいる理由などを理解してもらう療法であり、失見当識状態を改善しようとする手法です。あらゆる場面で思い出してもらう手法と、30分に1回や1週間に1回といった決まった間隔で思い出してもらう手法があります。認知症の人の見当識を保つ手法であり、同時にコミュニケーションを行い情動へも働きかける効果があると考えられています。
療法5:コグニサイズ
コグニサイズは国立長寿医療研究センターの先生方によって開発された方法で、名前の由来はコグニション(認知・認識)とエクササイズ(運動)の2つの言葉の組み合わせです。コグニサイズでは、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動と、計算やしりとりなどの認知課題を同時に行います。体と脳に同時に適度な負荷がかかり、認知症予防、進行遅延に多面的な効果があると期待されています。軽い運動、認知課題のそれぞれをあまり慣れないように定期的に変えることでよいり効果が期待できます。詳しくは
国立長寿医療研究センターのパンフレットをご覧ください。
その他の療法:動物介在療法・園芸療法など
この他にも様々な療法が認知症に効果があると期待されています。
動物介在療法(ペットセラピー)は、動物を飼育したり治療犬と接することでBPSDを軽減するなどの効果があるとされています。
園芸療法では、植物を育てることによって安らぎをえると共に運動にもなるという精神・身体両面のリハビリを目的としています。また
タクティールという強い力を込めない優しいマッサージ法も認知症ケアの1つとして取り入れられています。様々な療法を加えながら、認知症患者を多面的に心身両面においてケアしていくことが求められています。