
アルツハイマー型認知症はゆっくり進行します
先述の通り、アルツハイマー型認知症の病変ははっきりと症状が出る前から起きています。徐々に進行しやっと症状が出ても、すぐに重大な影響を及ぼすわけではありません。記憶障害に始まり、年単位で症状はゆっくりと進行していきます。そのために、かえって認知症だと気づくのが遅れ、治療の開始も遅くなってしまうことがあります。現在のところ、アルツハイマー病の根本的な治療方法はなく、症状の進行を遅らせる薬剤しかないため、治療はできるだけ早く始めなければなりません。
アルツハイマー型認知症:初期(軽度)
臨床的にはアルツハイマー型認知症を
初期・中期・末期の3つのステージに分けることが多いです。初期は、日常生活に支障が少なく、症状が目立ちません。もの忘れの内容は主に出来事記憶で、最近の自分の行動や起きたことが思い出せなくなります。一方で昔の記憶や車の運転などの手続き記憶はあまり失われません。身体所見にはほぼ異常は見られず、また人格にも変化無く、愛想のよい場合が多いです。
アルツハイマー型認知症:中期(中等度)
記銘力障害に加えて、逆向性の健忘も現れます。図形の模写ができない構成障害や計算障害もよく見られます。認知症の定義にもなっている失語や失行、失認、高次脳機能障害といった症状も加わります。この頃には日常生活に支障が生じ、介助が必要になってきます。外出すると家に帰れなくなり、徘徊や夜間せん妄も見られます。周囲に無頓着になり、不機嫌だったり、性格が急に変わったように見える場合もあります。
アルツハイマー型認知症:末期(高度)
家族のこともわからなくなり、失禁や筋固縮などの症状が現れます。小刻みな歩行や前傾姿勢などの運動障害が見られるようになり、徐々に寝たきり(失外套症候群)になてしまいます。最後は、呼吸器感染で死亡する場合が多いです。できれば初期、遅くとも中期までに症状を食い止めて、アルツハイマー型認知症とうまくつき合いながら年を重ねることが理想的です。そのためには、できるだけ早い段階での受診と認知症の診断が求められます。
より具体的な各段階の症状
初期(軽度)
・銀行振込みや家計の管理など複雑なことができなくなる
・直前にしたことや起きた出来事を思い出せなくなる
・同じことを何度も聞き返すようになる
・日常生活の中での作業に時間がかかるようになる
・判断力がやや低下する
中期(中等度)
・記憶障害が悪化し、錯乱するときがある
・適切な言葉、必要な言葉が出てこなくなる
・新しく出会う物事に対応できなくなる
・今までできていた家事や買い物などができなくなる
・季節や状況に適した衣服が選べなくなる
・幻覚や妄想などの精神症状や徘徊が見られる
・暴力、万引きなど、衝動的な行動を起こすことがある
・性格が急に変わってしまったように感じられる
末期(高度)
・コミュニケーション能力が低下し意思疎通できなくなる
・小刻みな歩行や前傾姿勢になるなど、身体能力が低下する
・体重が急激に減少する
・食事中にむせて物を飲みこむのが困難になる
・尿や便の失禁が起こる
・寝たきりになってしまう
