診察前に患者さんや付き添いの人を労ることが次の診療につながります
認知症の方がかかりつけの医院で診察を受けるとき、認知症の相談である場合もあれば、もの忘れに関する相談である場合もあります。いずれの場合であっても、そのことを不名誉と考える方もいらっしゃり、本人が勇気を振り絞って受診されたり、家族の説得がようやく実って受診されているのかもしれません。初回診察において、受診されたこと自体を誉め、一緒に考えていきましょうと伝えることで、患者さんは次回以降も積極的に受診するようになるかもしれません。
待合いの様子や入室・着座の様子を観察することも診断に役立ちます
一般の診察同様、認知症の診察においても患者の表情や動作、服装などを注意深く観察することは大切です。観察は入室前の待合室の様子から始まります。特に高齢の方ほど、診察が始まるとよそ行きの表情になりますが、待合室での様子を観察すれば日常的な様子をうかがい知ることができるかもしれません。動作緩慢、小刻みな歩行、仮面用顔貌などが見られればパーキンソン病関連疾患が疑われます。また脱抑制行動、服装や髪型の乱れ、体臭や尿の臭いなどにも注意が必要です。さらにどこに座るのかわからず着座がうまくできない場合は重度の認知症や視空間認知障害を疑います。
病歴聴取では最初に患者本人の訴えをできるだけ聞き出します
家族や介護の方が同席している場合もありますが、まずは
患者本人の訴えをよく聞く必要があります。「今日はどういったことで来られましたか」「何か困ってらっしゃることはありますか」と言って、主訴を尋ねます。一緒にいらっしゃる方が話し出そうとしても、後から必ず伺いますので、と一旦丁寧に断りましょう。かかりつけ医の場合は、患者さんについての予備知識があり、認知症診断を念頭に診察を行う場合もあると思われます。そのような場合でも、まずは本人に最近の様子や病識を確認することが大切です。頭痛や腰痛といった愁訴でも、傾聴することで患者は安心・信頼し、今後の治療に良い作用があるはずです。
本人の次は家族や介護者からも聴取を行います
認知症が進行するにつれ、患者本人から重要な情報を聞き出すのは困難になっていきます。認知症検査の中には、家族向けのものも多くあるように、家族や介護者に聴取を行うことも非常に重要です。身近にいた人の目から見た、これまでの経過・症状、幻覚・妄想・徘徊などの有無を尋ねます。また遺伝的要因を考察するために家族歴(認知症の親族がいらっしゃるかどうか)、元々の知識レベルを推察するために教育歴、さらに高血圧や糖尿病などの認知症リスクの有無、また現在の内服薬の種類などを聞き出します。
「もの忘れ」については具体的な内容を尋ねる必要があります
神経心理学分野では、「
もの忘れ」は認知症の主訴である記憶障害を表す単語として一般的に使用されていますが、患者や家族が同じ意味で「もの忘れ」という単語を用いているかはわかりません。言語障害で言葉が出てこない状態や、視空間認知障害で物を見つけられない状態、あるいは難聴によりうまく言葉が伝わっていない状態が解釈され、「もの忘れ」と表現される場合もあります。具体的にどのようなことを忘れているのかまで、一歩踏み込んで尋ねることで、本当に記憶障害があるのかがわかります。
患者さんの概要がわかったところで認知機能の評価に進みます
患者さんの負担にならない程度にできるだけ情報が集められたら、次に認知機能の評価に進みます。認知機能障害は認知症の中核症状ですので、最も重要なポイントと言えます。詳しくは次項で述べます。認知機能の評価において
認知症検査がよく使われますが、ここでも患者さんの負担にならない検査、そして患者さんをじっくり観察できる検査を選択することが重要と考えられます。弊社出版の長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、医療現場で最も多く使われている検査です。簡単に実施・採点を行える工夫した用紙で、患者さんの負担にならず、実施者も落ち着いて検査を実施できます。