はっきりと症状が出るかなり前から脳に異変が起きています
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で一番多く、男性よりも女性に多く見られる傾向があります。また脳血管性の認知症などの患者数が横ばいであるのに対して、増加傾向にあるとの報告があります。最初はもの忘れから始まり、年単位で緩やかに病状が進行していきます。海馬の病変により、最近の出来事を忘れてしまうという症状が見られるようになりますが、その何年も前から、脳の異変は起きていると考えられています。
アルツハイマー型認知症は記憶障害から始まります
老化に伴うもの忘れは誰にでも起きることですが、アルツハイマー型認知症に伴うもの忘れ(記憶障害)はそれとは異なります。通常は約束を忘れても指摘されれば思い出しますが、アルツハイマー型認知症の方は約束をしたこと自体も忘れてしまいます。また、抽象的思考能力や判断力が失われ、さらには失認、失行などの見当識障害が起きます。また、妄想や徘徊など様々な周辺症状も起きます。
アルツハイマー型認知症には3つの病理的変化が見られます
1つ目の変化は
神経細胞の変性消失と
大脳の萎縮です。記憶を担っている海馬を中心に萎縮が見られ、やがて萎縮は脳全体に広がります。2つ目の変化は
老人斑の出現です。老人斑は染みのように見える構造で、神経細胞間に存在します。3つ目の変化は
神経原線維変化と呼ばれ、神経細胞自体に見られる変化です。これらはアルツハイマー型認知症の発見者であるアルツハイマー博士によって、1900年代初頭に報告されていましたが、当時その詳しい原因は不明でした。
老人斑はアミロイドβというタンパク質が蓄積したものです
1980年代に入って、老人斑や神経原線維変化の発生原因が明らかになってきました。老人斑は40アミノ酸程の長さの
アミロイドβというタンパク質が原因だとわかってきました。アミロイドβは凝集してアミロイド繊維を形成、それがさらに多数集合して老人斑を構成しています。このアミロイドβは「アミロイド前駆体タンパク質」が異常分解された時に生じるタンパク質です。「アミロイド前駆体タンパク質」の機能はまだわかっていません。
神経原線維変化はタウというタンパク質の凝集により起きています
タウタンパク質は、神経細胞の微小管に結合しているタンパク質で、通常は微小管を安定化させる役割があります。しかし、アルツハイマー型認知症の患者では、過剰リン酸化されたタウ同士がペアを組んで線維を形成し、神経原線維変化を引き起こしています。アミロイドβの元になるアミロイド前駆体タンパク質とタウタンパク質は、どちらも元々生体内に存在するタンパク質であり、誰もがアルツハイマー型認知症になる可能性があると言えます。
アルツハイマー型認知症の早期発見は非常に重要です
アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬はありますが、回復させる薬はありません。早期発見により症状が軽い内に投薬治療を始めれば、日常生活での不便を最小限に抑え、豊かな一生を過ごせます。早期発見するためには、最先端の画像診断に加えて、簡便に行うことができる認知症検査が有用です。日本で行われている代表的な検査の1つが
長谷川式認知症スケール(HDS-R)です。