軽度認知障害は認知症の予備軍と言えます
認知症は早期発見で進行を遅らせることができます。近年、早期発見のために、
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)という概念が提唱されています。DSM-5でも同様の概念がMild Neurocognitive Disorderという形で提唱されています。軽度認知障害とは健常者と認知症の人の中間の段階にあたる状態であり、認知症予備軍と言うことができます。認知症のハイリスク群を多く含むため、軽度認知障害の人々に予防策を講じることは、認知症対策に大きな効果があると考えられています。
軽度認知障害は全ての認知症に対して提唱されています
認知症はアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など原因の異なる認知症を内包しています。軽度認知障害は元々アルツハイマー型認知症の前駆状態として想定された概念であり、記憶障害に重きを置いた診断基準となっていました。現在では全ての認知症に対して、軽度認知障害が提唱されており、従来の記憶障害に重きを置いたMCIをamnestic MCI、それ以外の遂行機能障害や注意障害が主であるMCIをnon-amnestic MCIと呼び、区別するようになってきました。
軽度認知障害は認知機能に問題があるが、日常生活には支障がない状態です
軽度認知障害は健常者と認知症の人の中間の段階にあたる状態です。まず、大前提として①
認知機能(記憶、決定、理由づけ、遂行機能など)のうち1つに問題が生じています。その上で、②年齢の割に記憶力の低下が見られます。そして、③
日常生活動作が正常であり、④全般的認知機能も正常であり、⑤認知症ではない状態を軽度認知障害として定義しています。簡単に言えば、①~②健常者と区別するための定義で、③~⑤は認知症者と区別するための定義と言えます。
軽度認知障害の診察はまず認知機能について確認します
軽度認知障害の診察では、まず定義①の
認知機能の問題について確認します。記憶力の低下、もの忘れ、段取りの悪さ(遂行機能障害の症状)などについて本人や家族に尋ねます。軽度認知障害の場合は、自覚症状があることも多く、本人への質問も重要です。また
認知症検査も有用です。臨床現場最も頻繁に使われるHDS-R・長谷川式認知症スケールは、便利な認知症のスクリーニング検査であり、軽度認知障害の鑑別にも用いられています。
さらに日常生活動作(ADL)が正常かどうかを確認します
軽度認知障害の診察では、次に定義③の
日常生活動作(ADL)が正常かどうかを確認します。ADLはActivities of Daily Livingの略で、日常生活を営む上で不可欠な基本的行動を指し、日常生活動作か可能かどうかはリハビリテーション分野で非常に重要です。具体的には、自分で買い物の支払いができるかどうか、公共交通機関を使って外出できるかどうかなどを尋ねます。少し尋ねると日常生活動作が正常でも、問診を詳細に行うと、メモが無いと買い物できなかったり、少し違う場所へは一人で行けなかったりということが明らかになる場合があります。
軽度認知障害はじっくり丁寧に診察を行ったあとで診断します
少しでも迷う点がある場合は、1回の診察で診断を行わず、診察結果と可能性を丁寧に説明するのがよいと考えられます。HDS-R・長谷川式認知症スケールでは軽度認知障害に該当する診断基準が設定されていますが、これだけで診断することはできません。また、近年大幅に進歩した画像診断ですが、あくまで診断の補助です。必要な場合は複数回問診・診察を行い、その他の検査と合わせて診断を行います。加えて、必要なら半年に一度程度の経過観察を提案するのがよいでしょう。
軽度認知障害で受診後のフォローアップも重要です
せっかく認知症の前段階での受診機会があったので、この機会を活かしてフォローアップを継続することは大切です。軽度認知障害であって、認知症ではないからと今後受診しなくなるケースや、将来必ず認知症になるのだとショックを受けて受信を拒否するケースがあります。これらを防ぐためには、軽度認知障害の後に、①認知症に進展する場合、②そのまま軽度認知障害が続く場合、③認知機能が回復する場合、の3つがあることを伝える必要があります。また軽度認知障害の原因がアルツハイマー病やレビー小体病であるとわかった場合は、そのことを丁寧に伝えて専門医の受診を勧める必要があります。