心身症はこころが大きく関与する身体疾患の総称です
身体疾患のうちで、その発症や経過に心理的要因が密接に関与しているものを
心身症と呼んでいます。例えば、気管支喘息の原因は様々ですが、心理的な影響がみられる場合も多く心身症の1つでもあります。このように「心身症」という単一の疾病が存在するわけではなく、心身症としてとらえることができる様々な身体疾患が存在すると言った方が適切です。心身症を構成する疾患の種類は多岐にわたります。このことは、心と体の密接な関与の裏返しとも言えます。
神経症やうつ病に伴う身体症状は心身症ではありません
神経症やうつ病に伴って、身体症状が現れることは頻繁に見られます。例えば、うつ病の場合、睡眠障害、食欲減退、全身のだるさ、頭痛、便秘など様々な身体症状が見られます。これらは、定義上、心身症にはあたりません。心身症の定義に、神経症やうつ病など他の精神障害に伴う身体症状は除外する、とあるからです。心身症はあくまでも心理的側面の強い身体疾患であり、精神疾患とは区別して理解することが重要です。
心身医学はストレスの多い現代にこそ必要な分野です
心身医学(psychosomatic medicine・mind-body medicine)は、患者を身体面・心理面・社会面(生活環境面)といった角度から、総合的・統合的に診ていこうとする医学の分野です。身体面・心理面・社会面における相互作用に関する科学的な研究結果に基づいて、診断・治療を行い、最終的には心身症の発生を防ぐような教育・診療のシステムを確立することが目的です。管理社会、競争社会、そして高齢化社会である現代の社会にはストレスが多く、心身症になる確率は非常に高くなっています。今こそ心身医学が必要と言えます。
心身症は心療内科が主な担当です
心身症には様々な身体疾患が含まれます。それぞれの身体疾患は呼吸器科、循環器科、消化器科、皮膚科、整形外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科、口腔外科など様々な科が担当します。しかし、病態が複雑化し、慢性的な疾患も増えてきているため、体・心・生活環境を総合的にとらえ、改善を図る医療を専門に行う場として、
心療内科が設置されるようになりました。日本では九州大学に初めて心療内科が設置され、以降その役割と重要性は拡大してきています。
心身症として考えられる疾患は多岐にわたります
先述のとおり、心身症という具体的な疾患が存在するわけではありません。心身症としてとらえることができる様々な身体疾患が存在するわけですが、その範囲は非常に多岐にわたります。以下に代表的なものを列挙します。
○呼吸器系:気管支喘息、過換気症候群(過呼吸)
○循環器系:発作性頻脈(不整脈)、高血圧
○消化器系:消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)、慢性胃炎、胃酸過多、過敏性腸症候群、慢性便秘、心因性嘔吐
○内分泌・代謝系:甲状腺機能亢進症・糖尿病
○筋肉系:背痛、腰痛など各種の痛み、筋痙攣(チックなど)
○皮膚科領域:皮膚掻痒、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、多汗症、蕁麻疹、湿疹
○中枢神経系:緊張性頭痛、めまい、失神
○整形外科領域:関節リウマチ
○泌尿器・生殖器系:排尿障害、夜尿症、インポテンツ(ED)
○産婦人科領域:月経障害、月経前緊張症(PMS)
○眼科領域:視力障害
○耳鼻咽喉科領域:耳鳴り、メニエール病
○歯科口腔外科領域:顎関節症
○その他:摂食障害(拒食症・過食症)、肥満症
心身症は感情表現がつたない性格特性、アレキシサイミアと関連が見られます
心身症と関連する性格特性として
アレキシサイミアという概念が提唱されています。アレキシサイミアは失感情症と訳されていて、自分の感情あるいはストレスを受け止め、表現することが不得意な傾向がある性格特性です。自分自身はストレスを感じていないし、またそれを周りに伝えることもできにくいため、ストレスが蓄積され、それが結果的に身体を通して表現されることで、心身症として表れると考えられています。アレキサイミア自体は1970年代から存在する概念ですが、心身症の増加に伴って近年さらに注目されています。